旅のお供
インド旅行記5日目。 朝一でゲストハウスを出て空港に向かう。 バラナシから、デリーを経由し、ムンバイへ。 しかし、インドの飛行機が時間通り動くはずもなく、 僕がデリー空港に着いたのは、乗り換え予定の飛行機が飛び立ってからだった。 代えの飛行機を手配してくれたが、なんと出発は6時間後。 なんとかムンバイに到着したときは既に21時を過ぎていた。 ほとんどこれで一日が終わってしまったじゃないか。 というわけで少し番外編の話をしよう。
インドでの一人旅はなんだかんだで移動時間が多い。 今回のように飛行機で移動することもあれば、寝台列車で移動することも多く、 インドの街と街の移動時間は大体5時間から15時間ぐらい。 短いところでも3時間程はかかる。 僕は幸い日本から本を何冊か持ってきていた。 ここではそのうち1冊を紹介する。 アルケミスト。
アルケミスト。夢を旅した少年の物語。 世界的ベストセラーなので、既読の方もいらっしゃるかもしれないが、 ここでこの本を紹介するのも、ちょっとばかり理由がある。 作者はパウロ・コエーリョというブラジル人。 このインド一人旅の間に彼の本は何冊か読んだ。 彼は旅が趣味。というか大学を辞めて旅に出たり、仕事辞めて旅に出たり、ある意味本当に自由人であり、生粋のツーリスト。 世界中を旅しながら執筆するのが彼のスタイルで、 そこには彼が旅をしながら得た「生き方の示唆」のようなものが散りばめられている。
アルケミストと聞いてもあまり聞き覚えがないかたもいらっしゃるかもしれないが、 『鋼の錬金術士 FULLMETAL ALCHEMIST』なら知っているだろう。 そう、アルケミストとは錬金術士。 スペインの羊飼いであった少年は、ある日偶然王様に出会い、エジプトのピラミッドを目指す旅に出る。 そしてその道中で、様々な人と出会い、考え、やがて成長していく。 パン屋、クリスタルの商人、読書家のイギリス人、ラクダ使い、オアシスの少女、そして、錬金術士。 彼らとの出会い一つ一つが、新しい気付きを少年にもたらす。 自分と世界とどう向き合うか。 この本の問いはここに通じるだろう。
- 少年はなぜ羊飼いになったか。なぜ旅をするのか。
- パン屋はなぜ旅をしないのか。クリスタル商人はなぜ旅をしないのか。
- 作者パウロはなぜ旅に出たのか。
- 錬金術士はなぜ鉛を金に変える力を持つのか。
己が真に成し遂げたいこととどう向き合っていくか。 この本を読むことで、自分自身にこれを問うことになるだろう。 異国の遠く離れた旅中に読むには、ピッタリの物語だった。
作中では、2つの言葉が繰り返し使われる。 1つは、マクトゥーブ―これはアラビア語で、英訳すると“written”であり、 全てのことは大いなる意志によって予め定められているという意だ。 もう1つは、前兆―すなわち、気づくこと。 スピリチュアルな部分はインドの宗教に通じる部分もあったと思う。 人生を旅する。夢を叶える。 この少年の旅路にはそれらに必要な全てが記されていた。 薄いし、安い(kindleなら尚更)ので、未読の方には一読を自信を持ってオススメできる一冊であり、 強く決断するとき、この物語を読んだことが支えになる。そういう思えた本であった。
ドミトリー
話を現実に戻そう。 ムンバイは、デリーやバラナシとは違い、街はかなり発展していた。 例えるなら一世紀前の日本から、10年前の日本にタイムスリップしたような感覚で、 インド国内を移動しただけなのに軽くカルチャーショックを受けた。 同じ国で、こんなにも違うものなのか。
空港からタクシーに乗り、到着したのはこの旅最初で最後のドミトリー。 なぜかって?ムンバイの宿賃は、他の都市の4倍近いのだ。 物価が違いすぎて、高い宿に泊まる気になれなかった。 ちなみに、この宿はドミトリーであるにもかかわらず、今までこの旅中泊まってきた宿の中で最も良い値段である。 そうした背景もあってか、雰囲気は少し人数多めの外国人シェアハウスという感じ。 いんたーなしょなる、や。
ムンバイからは、西回りで北上し、再びのデリーを目指す。 明日以降新たに始まるインド西側での旅に期待を寄せつつ、今日は眠ることにしよう。 2013年2月27日 ムンバイにて。