インターネットのみなさま、ご無沙汰しております。
そして、昨年末はお騒がせしました。
これまではあまり積極的に公にはしてきませんでしたが、改めてこの場で公表すると昨年11月に「整理解雇」を行いました。
2019年11月25日月曜日。一生忘れることのない日。
朝一番、全社員が集められた沈黙の空間で、僕は話しはじめた。
「今回、 人員削減を実施するという決断をいたしました。」
僕らは2018年にシリーズAで10億円弱を調達して、採用と組織作りに注力してきました。昨年の頭では20人程度しかいなかった仲間が、あれよあれよと僕らの未来に共感してくれた人たちがメンバーとなってくれて、年末には100台半ばくらいになっていたのですが、その大半を解雇することになり、また再度20人程度まで組織を整理することを伝えました。
Azit を退職した仲間たちのツイートからはじまって、SNSやNewsPicks上で様々な憶測と共に Azit や CREW のことが取り上げられていたことが、今となっては遥か昔のように感じられますし、昨日のことのように鮮明にも思い出されます。
当時、渦中の真っ只中にいる身としてはただただ目の前の人一人ひとりと向き合うことに一生懸命で、外部に対しては沈黙を貫くことしかできませんでした。
事に至るまでの背景や当時の自身の気持ち、そこからの組織の立て直しについては、別途(後編・組織編で)まとめようと思いますが、今回はそこからどういう変遷で事業を立ち上げていったかと、Azit・CREW のこれからについて書いていこうと思います。
そのため、組織やチームに対する観点や想いは(前編・事業編)では意図的に省略しました。
今回このエントリーを書こうと思った理由としては、
- 今年に入ってからは、様々な人達から良い意味で「放って置かれる」状態が続いたので、これまで応援してきてくれた人たちに、Azit のリバイバルも漸く何とか形になりはじめてきたよ、と伝えたかった。
- 春を過ぎたあたりからは、コロナの影響も受けて、それこそ整理解雇を行ったり、ピボットを余儀なくされた起業家の方々から相談の連絡を受ける回数も増えてきて、スタートアップに関わらず事業や経営が厳しい状態になった際の経営者や中で戦い続けている人々に対して、何かのヒントになったり、熱量を持てるきっかけになったりするものになったらよいなと。
という2つがあります。
スタートアップのまざまざとしたリアルを、少しでも生々しくお伝えできれば本望です。
CREW への想いの昇華と断ち切り
自分たちの信じてきたものがいくつも身から削られていく感覚。
何かが崩れていく音が聴こえてきそうだった。
昨年末の整理解雇後はインターネット上でも有る事無い事を言われていて、多少のもどかしさももちろんありましたが、そうこうしているうちに冬も終わり、コロナ・ショックが起きました。
世界中の誰もが想定していなかったことのように思いますが「人が移動しなくなった」ことにより、交通産業も類に漏れず大打撃を受け、航空業界や鉄道やタクシー業界も含めて「人が移動する」ことを支えていた社会のインフラはその役目と役割の見直しを図る必要に迫られました。
CREW も例外ではなく、COVID-19 の普及と共に街の人気が消えていくのと合わせて、トラフィックも減っていき、緊急事態宣言が発動されてからは正直運営もままならない状態となってしまった(売上が運営に必要な固定費以下まで下がった)ため、運営自体を一時停止すると共に、先日2020年内をもって長期的な運営休止の体制へと移行することを発表いたしました。
年末に社内を整理したばかりのタイミングで、会社の支え、そして心の支えとなってほしかった CREW にも注力できなくなる。
ただそれでも、市場動向に関してはご時世的なものでもあり、
“長い視野では交通産業にまた参入の機会を見出して戻ってきたい”
という想いも込めて、事業譲渡や廃業ではなく休業するという形で落とし所を見つけました。
2015年、モビリティやMaaSという言葉、さらにいうとライドシェアという言葉すら世に浸透する以前に立ち上げ、魂を与え、愛を込めて運営し続けてきた CREW を主力事業から切り離すことに、企業としての合理的な判断とは別のところで一個人の創業者として、そして一人のファンとしての苦難がありました。
CREW が目指す未来の利便性と温かさに、きっと誰よりも僕自身が一番強く共感していて、それを好きなメンバーと成し遂げていく過程、それ自体が夢心地でした。
はじめて赤の他人を送迎し、何も言わずとも謝礼を払ってもらえたとき、
“世界中でただ一人、僕だけが見つけた日本人だからこその思いやりの形だ”
と思いました。
はじめて CREW のアプリができて、CREWパートナー(ドライバー)を呼んだとき、
今とは違ってドライバーの位置情報はヌルヌルではなくカクカク動いたけれど、
それでも確かに知らないドライバーが僕の目の前に到着した。
“これこそがテクノロジーの力だ”
と思いました。
はじめて CREW の乗車中にCREWパートナーの方からお水をもらったとき、
「他のドライバーに乗せた方に喜んでもらえるっておすすめされてさ」と聞いて、
“これこそがコミュニティだ”
と思いました。
「CREW は、ドライバーの方々のホスピタリティが高いから好きなんだよね」
といろいろな人に言ってもらえたことがありますが、その瞬間が最も幸福を感じる時間だったかもしれません。
はじめての地方での実証実験を、鹿児島県の与論島で行ったとき、
島では、東京のようにそこら中にタクシーが走っているわけではもちろんなかったが、
与論島に一つしかない空港から、街の中心部に行くのにクルマで移動するしかなった。
“これこそが僕らが向き合わないといけない課題であり、存在理由であり、社会的使命だ”
と思いました。
もちろん、綺麗事の裏には何倍・何十倍もの泥水をすするような経験がありましたが、
それらをお金儲けだと割り切ってドライに切り捨てるには、魂をフルで乗せすぎていたのだと思います。
だから、丸5年間愛し続けたプロダクト CREW から離れる決断を自ら先導して行う際、僕は “AzitのCEOとして” 自分に対していくつかの約束をしました。
これは、CEOとしての強き自分が“創業者としての弱き自分”を奮い立たせるために必要なものでした。
- ビジョンを決して曲げないこと
CREW で目指して続けてきた“日本ならではのモビリティの未来”というビジョン
これからの僕らの路がこれまでの延長線上にあると信じられることではじめて過去を肯定できる - 僕らだから、を強みとすること
CREW で培ってきたネットワークや信頼、技術やノウハウといったアセットを活かしてできることを探すこと
ゼロからでもできることはしない - サステイナブルを目指すこと
何かが終わる瞬間に立ち会いたくないのと同時に、終わるものを創ることほど不毛に感じることもない
ただし、これは決してリスクテイクをしないことを指しているわけではない
暗闇の中で、何にしがみつくか
限定メニューが8分で売り切れた。
想像以上のニーズがそこにはあった。
それでも、今のままではうまくいかない、と思って踏み込む決断はできなかった。
コロナ・ショックの影響で CREW を休止することを決めたものの、その先で何をやるかはまったくの白紙の状態で春を迎えました。
自らが自らに課した約束に従い、新たな事業展開の模索がはじまりました。
Azitは学生時代にiOSやAndroidのアプリ開発をスタートしたところから続けている会社で、CREW 自体も6つ目か7つ目に企画した自社プロダクトであったこともあり、ピボット(というより当時は完全にリスタートだった)自体は人生何度か目であったものの、今回のプレッシャーは桁違いでした。
スモールチームになったとはいえ、たった数人の同好会のような集まりだった当時とは、単純に背負っているものの大きさ、歴史が違いました。
例えそれが社会から見たら米粒ほどの大きさであり、世界からみたら誤差の範囲内だったとしても、自分たちで紡いだ物語だからこそ、軽んじることはできませんでした。
そんなこんなで重荷だけ勝手に背負って進むべき道筋も見えぬままだった僕らに、これまたCOVID-19の影響で今までにはなかった声がいくつか届くようになりました。
「テイクアウトをはじめたんだ。これ、CREW で届けてもらえたりしないかな?」
それは、飲食店を経営する方からの相談でした。
そしてこうした相談を下さる方が、一人二人と日に日に増えていきました。
モビリティ分野で事業展開をしていたので、デリバリー領域は少なからず関心がありましたし、資金調達で投資家の元を回っていた際も
「規制の多い人流領域ではなく、課題感が深刻な物流領域に事業展開を行ってほしい」
というメッセージをいただくことも多々ありました。
ただ、僕個人としてはデリバリー領域への参入に対してはかなり慎重なスタンスでした。
物流領域に関しては、高いレベルでのオペレーション・エクセレンスが求められ、そこには業界特有の知見や経験が必要とされるが故に中々手出しがしにくい印象があり、
また、フードデリバリーは、真っ赤としか言いようがないレッドオーシャンに見えていて、弱小スタートアップとして勝ち筋を見出していくことはほぼ不可能に視えていました。
そんな中やってきた
「Uber が Uber Eats をやっているなら、CREW も CREW Eats をやってよ。」
というシンプルな発想から来る、切実な依頼。
正直、会議室で議論だけしていたら企業として取り組むべき理由よりも取り組まないべき理由の方がよっぽど強いロジックを構築することができると思いながらも、
“顧客と向き合うことでしか何もはじまらない。”
そう考え、目の前で深刻な顔をする飲食店の方々を見てみぬ振りもできずに、できることから支援をしはじめてみることに決めました。
いや、もっと格好つけずに言うなら、単純に
“食べることが大好きなのに、好きなお店が潰れていく未来は嫌だ”
という至極個人的なペインの解消のための意思決定をしたのかもしれません。
デリバリーの支援をスタートすると決めてからは、CREW を立ち上げたときと同様にまずは僕ら自身で配達の実践してみることからはじめました。
ストップウォッチを押して時間を計測しながら、寿司だってフレンチだって配りました。
まずはあくまで無償でも、実体験として“やってみる”ところから。
クルマを借りて、飲食店まで料理を取りに行き、自分の家まで届ける。そして、食べる。
明くる日も、また飲食店まで料理を取りに行き、今度は友人の家まで届ける。
届ける先も知り合いだからって玄関先でちょっと立ち話をしそうになりますが、配達は時間が命なので何とか理由をつけて早くクルマに戻らないと、とか普通だったら経験しない悩みを持ちながら検証を進めていきます。
クルマで運ぶと駐禁切られるリスクがあるため、ツーマンセルで配達を行っていたのですが、
クルマの中で待機しているときに、ふと思いました。
「これ、自分いらなくない?(待機しているだけだし)」
繰り返し実施しているうちに、いくつか気づいたことがありました。
- 人を送るときのような極度のプレッシャーがない
比較すると、圧倒的に気楽にはじめることができる - 駐車する場所や小回り等を考慮するとクルマは配達に向いていない
それと同時に、クルマを用いて有償で配達行うことには規制も絡んでおり、リーガル観点でも扱いにくいという課題もありました
より小回りが効くモビリティ・アセットとして、バイクにフォーカスすることに決めました。
また、様々な飲食店の方とお話させていただく中で、購入者・飲食店・配達員と3WAYのプラットフォーマーには実現できないカテゴリーのデリバリーニーズがあることも、徐々にわかってきました。
「自分たちで配達しようと思うと、誰かが空いているときじゃないと届けられない!」
「正直、他の店と並列に並べられるのは嫌なんだよね。」
「フードデリバリーサービスのスピードはすごい!でも、店の前でたむろされるのはごめんだ。」
こうして “自分たちに期待されている付加価値” が明確化されていきました。
- 配達ネットワークの効率化とスケーラビリティの担保(テクノロジー)
自社で配達員を雇用してお店と配達先を往復させるよりも「近くにいて信頼できる誰か」に依頼できた方が圧倒的に効率が良い、そして早く届く
また、同時配達が一定の人数を超えると配達管理が非常に煩雑になり、ここを人力から機械での仕事に置き換えないことにはそこがビジネスのボトルネックになってしまう - 顧客体験を阻害しない配送品質(コミュニティ)
顧客側からすると配達まで含めて購買体験の一部になるため、商品をこぼさない、清潔感のある人が届けるといった配達パートナーの品質担保が求められる
自社雇用だとしても、外部利用だとしても、顧客には関係ない
このタイミングで、 CREW Eats としてはじめたこのサービスを『CREW Express』と命名し直して、あらゆる領域のデリバリーを担えるサービスと昇華させることに決めました。
次世代バイク便『CREW Express』の誕生
身近なニーズから生まれたフードデリバリーから派生してオンデマンド・デリバリーの展開を考えてていたときに、ふと気づきました。
もしかして、これってバイク便じゃないか?
新しいことをやるときに、「どういうカテゴリーネームをつけるか」は毎回悩まされるテーマです。
CREWを展開しているときも、海外のライドシェア・サービスとは思想もビジネスモデルも違うし、MaaSという言葉も当時はなかったため、CREW を何と表現すればよいのかは運営をはじめてしばらくの間迷走していたと記憶しています。
CREWは自家用車で配車を行っていたので、間違いなくタクシーではありません。
ただ、 CREW Express は疑いようもなくバイク便そのものでした。
フルスタック・スタートアップとして実現するバイク便DX
「バイク便」というものが僕にとってはあまり馴染みのないものだったため、よくよく調べてみるとビジネスの構造はタクシーに非常に近しい構造であることがわかってきました。
東京では、街中で手を挙げると空車のタクシーがすぐに見つかりますが、これは人を乗せていないタクシーがたくさん存在するということで、つまるところ稼働率が低いのです。
これはバイク便も同様で、待機所にバイクが待機しており、その待機時間にもコストが発生するモデルになっているため、タクシー同様に稼働効率が悪いです。
また、伝票やFAXなどの昔ながらのオペレーションも散見され、様々な部分でテクノロジーによる効率化の余地が発見できました。
まず最初に、既存の業界を活性化させる方法が思いつきました。
目指すべきは “破壊ではなく共存” です。
判子の撤廃、電子署名サービス等の普及等で需要が減少していくように思われるバイク便業界の配送効率や利便性をさらに上げることができる兆しが見えてきました。
また、西海岸で著名なVCであるAndreessen Horowitzが唱えた「フルスタック・スタートアップ」という概念があるのですが、既存の仕組みを効率化しようとするのではなく、テクノロジーを用いてサービス体験やビジネスの構造を再構築することでイノベーションを起こすスタートアップを指しています。
スケールを目指すスタートアップとして、ここにある問いともストレートに向き合うことにしました。
もし今日のテクノロジーを使ってゼロから再構築したとしたら、この業界はどのようになるのだろうか?
2012年からプロダクト・ファーストでものづくりを続けてきたチームで、テックドリブンな新しい仕組み作りを志向することで、フードデリバリーやバイク便という枠組みに当てはまらないよりスケーラブルなデリバリー・システムが構想できるようになりました。
そしてそれと同時に、
“この先に視える未来は、CREW で描いていた未来と同じだな”
と思うようにもなりました。
“モビリティ” の本質
流動的なネットワークを持たず、機械に学習させるデータを持ちようがないMaaSなんてダウトだ。
長期である領域に張るために必要なことはスタートアップのトレンドを追うということではなく、技術変化や社会の変化に確信を持つということ、だと僕は思っています。
2015年にCREWの事業参入を決めたとき、僕が信じることができた仮説は、
- スマートフォンの普及によって、点在する人々のリアルタイムの位置情報をサーバーで取り扱えるようになる
- 人々の位置情報を元に、移動の最適化の仕組みを抜本的に創り直せるようになる
これらでした。
以前のエントリーでも言及しましたが、モビリティは本来「流動性」を意味する単語です。
昨年あたりからMaaSというキーワードだけで様々なモビリティ・ビジネスに注目が集まっていると思いますが、モビリティ分野におけるイノベーションは、流動的なネットワークを持つことから発展していくと考えています。
今回、CREW Express を実現していくにあたって、プロダクトやオペレーションを CREW と比較した際に、C2CではなくB2B2Cの構図になるので、B向けの機能開発が必要だという点で多少異なりますが、本質的に必要とされる技術やデザインはかなり類似していることもやっていく中でわかってきました。
顧客体験を創り出すクライアントアプリがあり、そこから位置情報を吸い上げておき、需要がリクエストとして送信されると、需給バランスに応じてダイナミック・プライシングで価格の最適化問題を解く。そして、リクエストに応じてサーバーでリアルタイムに最適なマッチングを行い、時には複数のリクエストを同時に処理できる仕組みを提供する。マッチが完了したら状態遷移を同期させ、送迎や配達を完了し、相互評価を行い、最後に決済が行われパートナーに報酬が支払われる。
CREW でも CREW Express でも、プロダクトをすごくシンプルに説明してしまうとこのような形になるのですが、結局のところ流動的なネットワークを用いてスケーラブルな形で最適化問題を解いているという意味では本質的に同様です。
フルスタック・スタートアップにとって、エンジニアリングが重要な理由はここにあります。
強いて差分を見つけるのだとすると、CREW の特徴として「謝礼を支払うことができる」という独自の仕組みがあります。
当時は世界的にもあまりこうした謝礼やチップの支払いがあるようなインターネットサービスはなく、僕自身UIを制作する過程で参考になるものが少なく苦労した思い出もありますが、最近だと多くのフードデリバリー・プラットフォームが配達員に対してチップを支払える機能を導入しています。
友人たちにヒアリングをし、フードデリバリーにチップを払う人たちの声を聴く中で、欧米のようなスタンダードなチップの文化ではなく、あくまで感謝の印として使っている人が多いとも気が付きました。
雨の中届けてくれたりすると、ありがとうって気持ちと申し訳なさとが相まって、プラスでちょっとチップ払うようにしてるんだ。
日本人って、やっぱり心が豊かな人たちが多いんですよ。
これは、僕が CREW を運営していたからこそ持っているインサイトであると同時にバイアスであり、それでも日本で長く続くプラットフォームを創っていこうとするのであれば、こうした価値観を実施にプラットフォームに参加するユーザーの方々と分かち合えることは、僕は重要なことだと思っています。
やはり「ありがとう」が循環していく社会が在るべき、だなと。
プラットフォームを創ることの楽しさであり、大変なところは、自分たちが推奨する行為を行ってくれるユーザーに対してインセンティブをつけることができるところです。
だから、自分たちが “理想とする働き方” これをブレずに定義できている企業は強い、と思います。
CREW のときには、規制によって創りきれずに犠牲にされたUXがたくさんあったけれど、今回はそういう障壁がなさそうで安堵している節はあります。
結局のところ、モビリティの本質は流動的なネットワークをいかに活かすかにあって、この技術発展によって人々はもっと簡単につながれるようになっていきます。
近くの誰かがクルマで走っているなら、乗せてくれればいいし、雨の日に傘を指して買い出しに行かなければいけない人は誰か一人でいいよね、と。そういうことなのだと思います。
そして、同時にモビリティ・プラットフォームは新しい働き方を実践できる場所にもなります。
誰もが、いつでも好きなとこに好きな場所で好きな道具を使って働くことができる。
自由になれる。人々は、様々な制約から解放される。
これが “ワーク・インフラ” としての価値です。
そして、こうした働き方は「ギグワーク」と呼ばれることもありますが、ここには潜在的なものも含めて様々な課題があります。
僕は、モビリティ・プラットフォームの企業はエンジニアリングに強い企業であると同時に、この新しい働き方に対して適切な振る舞いをデザインできない限り、長期的に生き残っていくことが難しいとも思っています。
これについては、組織の話と織り交ぜて(後編・組織編)で触れていきたいと思います。
改めて「“日本ならでは”のモビリティの未来」と向き合う
昨年までは誰もが想像すらしなかった、JRでさえもが赤字になる時代。
呑気に創業事業にこだわっていられる余裕なんて、ちいさなちいさなスタートアップである僕らにあるわけがありません。
「今選べる最善の選択肢」を取り続けた末にしか、生きる道はないのです。
そういう観点では、後悔といった後悔はありませんが、
一つ、CREW を5年間やってきて “一種のやるせなさ” を感じているところもあります。
2010年代のグローバルでのスタートアップ・シーンを(少なくとも時価総額という観点で)盛り上げた中心にモビリティ分野で急速に発展した企業がいました。
エンジニアリングとデザインによる社会変革という観点において、この10年で最もインパクトのある分野の1つであったことは間違いがないと思います。
ただ、結局のところ、「その変革に最も出遅れた先進国は紛れもなく日本になってしまった」と言われても、今となっては黙って頷くしかありません。
おままごとみたいな課題解決しか実現されず、社会課題はそのままスライドで2020年代に持ち越し。
5年かけて何も成し遂げられなかったかと思うと、まったく笑わせてくれるな、と。
たどり着くまで
それでも、このチャレンジは続きがあります。
ここまで書いてきたように、僕は「ヒトの移動」と「モノの移動」を別物ではなく、一つの事象として抽象化して捉えてきました。
今はどの企業もヒトの移動には注力できないご時世ではありますが、これら2つの移動はいつか交わると信じています。
CREW Express の創る未来は、CREW で描いた未来から見て近接的な未来であり、その実現がそのまま CREW で描いた未来の実現に直接的に寄与する、と。
Uber や Didi, Grab や Go-jek といったモビリティ・カンパニーがヒトの移動もモノの移動も同時に手がけているのはそういうことでしょう。
そしてこれは同時に、ヒトとモノの双方の移動を指しているモビリティの発展には「密度」というファクターが共通して重要であり、密度をつくりにくい地方部におけるモビリティが発展しなくなることを意味します。
この仮説は全世界において真だと思いますし、人流と物流、どちらのルートから行っても最終的に避けられない社会課題として登場します。
「日本は、地方を捨てられる国ではない。」
これは、僕が CREW をやってきた中で日本がいい国だなと思った大きな理由の一つです。
短期的に経済不合理な地方を切り捨てる、という決断もある種の合理ではありますが、サステイナブルな社会を本当に実現するのであれば、例え難題でも切り捨ててはいけない領域だと思います。
それに、行けばわかります。
日本の地方にはたくさんの魅力が詰まっている、と僕は何度も肌身で感じました。
地方のモビリティ分野の課題解決に関しては、2018年から手掛けてきました。
未だに試行錯誤ですし、まったく正解はわからないです。
それでも、社会からサステイナブルに必要とされる存在となれるよう向き合っていくこと、それこそが重要だなと思います。
ポール・グレアムは、スタートアップとはグロースだと言いました。グロースも大好きです。
最近の僕は “ビジョンを実現するためのサステイナブルな仕組みをゼロから創り上げること” に “スタートアップ” を感じながら、今日を歩んでいます。
最後に、昨年末からの大変だった時期に、恩人に何度も言われ続けた言葉を引用して、このエントリーを締めたいと思います。
灯火を絶やしてはならない。
サステイナブル、というとちょっとかっこつけた感じになるのですが、この言葉はすごくリアルで鮮明に感じられます。だから、お気に入りの言葉です。 僕らの心に秘めた火で社会を灯し続けていけるよう毎日がんばって生きていきます。
前編・事業編は、以上です。ありがとうございました。
後編・組織編は、多くの人の感情が交差しているため、より表現が難しいです。どこまで書ききれるかわかりませんが、スタートアップの生々しさという観点を考慮したときに事業の話と切っても切り離せない内容だと思っています。
読みたいって言ってもらると書くモチベーションとスピードが上がるかもしれません。永遠に公開されない後編、にならないようにご声援よろしくお願いします!笑
株式会社Azitでは“日本ならでは”のモビリティの未来を創っていくために、共に挑戦していける仲間を募集しております。
僕個人のTwitterやFacebookに直接メッセージいただいても結構です。
お茶でもしましょう!